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「新聞掲載記事」

06年9月21日(木)新文化 Contents & Column 「ウチのイチ押し」

 島田荘司が『占星術殺人事件』でミステリー界にデビューしたのは1981年。当時は松本清張に代表される「社会派ミステリ」が全盛で、島田作品のような、乱歩や正史の流れを汲む本格探偵小説は、不当な扱いを受けることが多かった。そのなかで本格ミステリの新たな地平を拓き、綾辻行人、法月綸太郎、安孫子武丸らの後進の発掘・育成を助け、同ジャンルの定着に尽力してきた島田荘司は、今や名実ともに大黒柱的な存在だ。
 デビュー25年目の今年、初の全集、「島田荘司全集」が南雲堂から創刊される。まず第T期10巻として、発表順に各巻3〜4作を収録。第1回配本は9月22日で、第1巻には「占星術殺人事件」「斜め屋敷の犯罪」(82年)、「死者が飲む水」(83年)の初期長編3作を収める。
 3作とも「改訂完全版」と銘打つのは、全集刊行に際して著者による全面手直しが施されたため。今後も初期作品には、現時点での著者の知識や見識に基づく改訂が行われる予定だ。そのため当初は年1点の刊行ペースとなるが、ちょっとした論理の穴や事実誤認も放置しないという著者の意気込みがそこにある。また小説以外に様ざまな社会評論も発表されているが、本全集はミステリー作品のみを収録する。
 背表紙に小さな黒い文字で「島田荘司全集」とある以外、タイトル・帯もない函は、灰白色のコンクリート塊を連想させる。そのなかから現れる、無機質なイメージ写真を被った本体――この斬新な造本は、デザイナーの戸田ツトム氏による。島田氏自身、美大出身でデザインにも一家言があり、試行錯誤の末に決まった形だ。但し店頭では、目についても判りにくい恐れがあるため、同社ではPOPを用意している。
 20代の若者から中高年まで、幅広い読者層が特徴でもあり、価格は四六判、830ページの大冊で3500円と極力抑えたという同社。書店人のなかにもファンが多く、営業に手ごたえが感じられるという。9月30日には東京・吉祥寺のミステリー専門書店、TRICK+TRAPで著書のサイン会が行われる。

≪編集担当・星野英樹氏より一言≫

 「現在の本格ミステリジャンルの礎を築いた島田さんの集大成。各巻にゆかりの人物との対談を載せた月報が付き、作家としての歩みや思考が明らかになるのも、ファンにとっては楽しみのひとつでしょう」

(「新文化」とは、書店・図書館が購入する業界新聞です)



9月25日(月)朝日新聞 夕刊  文化 「こと場」

 6月から11月まで月1点ペースで6点の新作を出し続ける。 全集の刊行も始まった。「新本格ムーブメントが終わったという議論があるほど危ない時期を迎えるなか、次の世代に新本格のバトンを手渡していくためにも頑張って書いていきたい」
 「新本格の特徴は登場人物を記号化して描くことですが、ブームの中で人間を描いてはいけないという主張が生まれ、排他的になったところもあった。出たばかりの『UFO大通り』では、本格の持つ理論思考は残しながら、救済や優しさを持つホームズ的な人物像に戻っています」
 『占星術殺人事件』でデビューし、25年。「やってこられた秘密はアイデアのリストを作って、増やし続けていくことです。ノートやパソコンに残しています」
 全集は年1点で、第1期10点の刊行を予定している。「『占星術殺人事件』も原稿に手を入れ、完全改訂版と言えるものになりました」


10月2日(月)毎日新聞 夕刊

 81年『占星術殺人事件』で本格ミステリー界に鮮烈なデビューを飾った島田荘司さんは、今年で作家生活25年を迎えた。6月から月刊ペースで新作の刊行が続いている。9月末から全集の刊行も始まった。「今年は走ろうと思います」と語る旺盛な活動に駆り立てるものはなんだろうか。(内藤麻里子)

 「月刊 ・島田荘司」といわれるほどの出版は講談社、光文社、原書房の連携で実現した。6月の『帝都衛星軌道』(講談社)を皮切りに11月の『最後の一球』(原書房)まで6ヶ月連続で刊行する。全集(南雲堂)は第1期10巻を刊行する。第5回配本分までの初期作品は全面改訂したという。デビュー作『占星術殺人事件』も随分手を加え、分量も増えた。
 こうした活動の背景には、トリックのある謎を名探偵が解くという本格ミステリーに対する危機感があるようだ。島田さんといえば、「新本格」作家を世に送り出したことで知られる。「新本格」とは、87年にデビューした綾辻行人さんはじめ京大推理小説研究会出身者を中心に、法月綸太郎さん、歌野晶午さんらの若手作家を総称した呼び名。「新本格のムーブメントが一段落し、第二の綾辻、京極(夏彦)というスターが出てほしい。そのため私も動きたい。たくさん書いているうちにスターが生まれるのではないか。後に続く人たちにバトンの受け渡しができると思う」と説明する。
 今、改めて「新本格」とは何かを分析することから、島田さんは現在の執筆姿勢を語り起こした。ポイントはアメリカのヴァン・ダイン(1888〜1939年)にある。
 「ドイルの描いたホームズには男気や弱者への視線があり、手柄を誇らない騎士道精神があった。ところが、ヴァン・ダインが登場し、『本格』を一変させた。感情的なもの、例えば恋愛などは排してより論理的であれ、よりゲーム的であれと言った。この提案は洒脱な会話や冷静なゲームを楽しむという点で非常にカッコよかった」と指摘する。当時の日本の探偵作家たちも取り入れようとしたが、「ジョークを交えながら殺人事件の推理を語るのは日本文学の中では高級とされなかった。日本流のやり方で取り入れると、横溝(正史)のようなどろどろした作品になった」
 そこに登場したのが綾辻さんたち「新本格」だった。「ヴァン・ダインの本格を構造的にうまく取り入れた。その方法とは登場人物を記号化することだった」と言い切る。かつて島田さんは「新本格の七則」を挙げたことがある。「館、孤島、吹雪の山荘など閉鎖空間があり登場人物がフェアに前半で紹介され、そこに密室があり、生首が転がっているのが望ましく、外来名探偵が来て、最後に意外な犯人を指摘する」といった前提条件のことだ。
 「それだけではなく、登場人物の記号化が必要だった。それこそが新本格の歴史的意義だった」。人間描写、文学的表現を手放して、記号化によって洒脱なゲームが現実化したわけだ。「本格ミステリーが人間を描けていないと批判される理由にもつながっている」と分析する。
 さて、「新本格の動きも一段落し、新たな方法論を求められる時期だ」と島田さんはみる。では、次にくるものは何だろうか。
 「ヴァン・ダイン以前、(エドガー・アラン・)ポー、(コナン・)ドイルへの回帰を考えている」。それは「ゲームに走りすぎる前に持っていた、名探偵ホームズのありよう。底辺の人々に対する共感、下から見上げるいたわりの視線、人情です」。自殺者が毎年3万人を超え、「勝ち組」「負け組」という考え方がはびこる現代だからこそ見直すべきだと訴える。
 改めて「本格とは?」と尋ねると、「論理的思考、その一点があればいい」「ホームズ的やさしさ、魅力と論理的思考に戻ってみたい」。新作の中で、そのイメージが特に強く出ているのは御手洗シリーズの一作で8月に刊行された『UFO大通り』(講談社)だという。中編2作から成るが、特に表題作にその色合いが濃い。UFOを見たというおばあちゃんと子供たちによって、御手洗は動き始める。どこか懐かしさ漂う物語だ。
 25年目にして、島田荘司は殻をまた一つ破った。本格をめぐる思考を深め、本格ミステリー界に刺激的な言説を投げかけている。


9月26日 読売新聞 朝刊
島田荘司さん ミステリーへの思い
「21世紀本格」私が書く

 作家デビュー25年を迎えた島田荘司さんが精力的に活動している。6月に『帝都衛星軌道』(講談社)、7月に『溺れる人魚』(原書房)、8月に『UFO大通り』(講談社)、9月に『光る鶴』(光文社文庫)――と矢継ぎ早に新刊を出し、今月から『島田荘司全集』(南雲堂)の刊行も始まった。
 が、作家の表情には厳しさがある。「新本格ミステリー」ブームを共に起こした盟友の編集者、宇山秀雄氏を8月に失っただけではない。「本格ミステリーは今、危機の時代にある」との思いが強いからだ。
 「1987年に始まった新本格ムーブメントが一段落したのに、第二の綾辻行人、京極夏彦が登場していない。だから、自分が書かねばということなんです」
 折しも、東野圭吾『容疑者Xの献身』の評価をめぐり、作家、評論家らが「本格とは何か」の論争を巻き起こしている。島田さんは論争からは距離を置きつつ、「『X』は小説として面白いし、本格の範疇(はんちゅう)に入る」と擁護する。しかし、「社会的弱者への視線が、最近の本格から失われているという(笠井潔氏の)批判にも共感する」と語る。
 新本格は、知的ゲームを洗練させるため、人間を記号的に描く手法を取り、それゆえの小説的限界もあった。今、島田さんが提唱するのは「コナン・ドイルへの回帰」だ。
 「ホームズはボクシングの選手で、男気があり、弱者への優しさも持っている。書斎派のオタク的な名探偵ではない。そうした人間的魅力と、高度な論理性を組み合わせることで、新たなミステリーの救済が見いだせないかと思っています」
 その成果の一つが、名探偵・御手洗潔が活躍する『UFO大通り』で、突飛な不可能性とユーモア、社会的テーマが混然とした好中編集に仕上がった。さらに『溺れる人魚』では、クローンなど先端科学の知見を取り入れる実験を行っている。
 「ポオを始祖とするミステリーは、警察の捜査法にしても、19世紀的なルールから抜け出していない。野球と同じで、今でもバットは木、グラブは革。しかしそこにF1レースのように、新素材、新技術を投入していけないか。私は『21世紀本格』と呼んでいるんですが」
 25年を振り返り「幸運なことだが、やってきたことに大きな間違いはなかった」と笑みを見せる。全10巻予定の「全集」では、初期作品に大幅に筆を入れている。「第1巻収録の『占星術殺人事件』も大幅に文章を修正しました。改訂完全版のつもりで出します」(石田汗太)


06/10/05 更新            

9月23日(土)日本経済新聞 朝刊 「語る」欄

 六月に「帝都衛星軌道」、七月に「溺れる人魚」、八月に「UFO大通り」、九月に「光る鶴」。版元各社が「月刊・島田荘司」とうたっている通り、毎月ミステリー作品が刊行されている。この試みは十一月まで続く予定だ。
 「ポーの『モルグ街殺人』は最先端の科学に裏打ちされている。ドイルが生み出した名探偵ホームズは頭だけでなく体も使って事件を解決していた。ミステリーの元祖である二人の精神に回帰することを狙った。」
 「溺れる人魚」の表題作には医学の専門知識が登場する。「UFO大通り」では名探偵・御手洗潔が事件解決のために文字通り体を張る。「野山を駆け巡りながら、権力の危うさを指摘し、立場の弱い人々を助けたホームズのような存在が、今こそ求められているのではないか」。自らも小説執筆のかたわら、冤罪救済や死刑廃止問題で積極的に発言している。
 大学卒業後、フリーライターとして新聞・雑誌に文章を書き、イラストを描いていたが「三十歳の誕生日に一念発起してミステリーに取り組んだ」。それが斬新な謎解きと幻想的な作風で話題となったデビュー作「占星術殺人事件」。以来、論理的な謎解きを重視した本格ミステリーの旗手として活躍、「新本格」ブームを作った綾辻行人、歌野晶午ら後進に影響を与えた。
 もっとも、本格ミステリーの現状には危機感を持つ。「半歩ずつでも前進しなければ現状維持はできない。今の『本格』は同じメンバーが同じ水準で書いているように思う。かつて綾辻君が登場した時のように、スターを生み出さなければならない」。全力疾走の執筆活動は本格ミステリーの魅力を訴えるためでもある。
 米ロサンゼルスで一年のほぼ三分の二を過ごしている。「ロスは普通に暮らしている分にはとても退屈なので、執筆が東京よりはかどる」と笑う。日米両国を行き来しながら、常に新しいアイデアを探している。

                 

              06/10/07 更新      

10月27日(金)信濃毎日新聞 「人物点描」蘭 

 −新たな方法論へ ホームズを意識−

 本格ミステリー界を牽引してきた作家の一人、島田荘司さんが、一九八一年のデビューから二十五年目の今年、”全力疾走”を続けている。六月から十一月まで月一冊のペースで新刊を出し、九月からは『島田荘司全集』(南雲堂)の刊行も始まった。
 背景にあるのは「危機感」だ。「今、本格ミステリーは危ない時期にある。どうすれば救済できるのか。第二の京極夏彦さんが出てくればいいのでしょうが、スターが出てくるまでには時間がかかる。だからこそ、頑張って書きたい」
 島田さんは今夏亡くなった講談社の元編集者、宇山日出臣さんとともに、『新本格』と呼ばれるミステリー作家たちを世に出したことでも知られる。八七年にデビューした綾辻さんに始まり、法月綸太郎さん、歌野晶午さんらの活躍は、ムーブメントとも言えるものだった。だが「それも一段落した」と話す。
 「新本格」の特徴は、登場人物の記号化だという。「新本格は、米国の作家ヴァン・ダインの方式をうまく取り込んだ。つまり、人間を描かずに記号化し、極端にゲーム化したのです。でも、ムーブメントが起きて本が売れると暴走が起こる。人間を書いてはいけないんだというような風潮の中で、排他的になっていった。ここで新たな方法論を見つける必要がある」
 島田さんは、ヴァン・ダイン(1888−1939年)以前の作家、コナン・ドイル(1888−1930年)を意識しているという。「ドイルが描いたシャーロック・ホームズには奔放さや騎士道精神、弱者へのいたわりがあった」。毎年、自殺者が三万人を超えるような日本だからこそ、ホームズ的人物像が大事だと言う。
 その思いを、島田さんは御手洗潔という探偵に託す。八月出版の「UFO大通り」(講談社)の表題作も、御手洗の優しいまなざしが印象的だ。
 「本格ミステリーは、論理的思考さえあればいい。ホームズのような魅力と同時に論理的思考がある。そういう場所に戻って書いていきたい」

06/11/03 更新